ととりばのはじまり
この宿の元々の名称は『浜の伊達』といいます。
この港では最も歴史のある民宿で
全盛期は1日40名の宿泊客で賑わったそうです。
そんな宿も、今は亡き旧オーナー様が
引退してからは、15年もの間眠ったままでした。
その頃私たち夫婦は当時大室高原でゲストハウスを営んでおり
新天地を探す中で、この宿と奇跡的な出会いをします。
オープンに向けた準備に胸を躍らせる私たちでしたが
なんとその頃、大部分の工事を任せていた業者が
宿の解体後、予算の約半分にも及ぶ大金をもって失踪します・・・。
無知でお人好しな私たちは、高い勉強代を支払うことになりました。
そのお金はただの自分たちの貯金だけではなく
応援してくれている親族の出資・銀行の融資も含まれていました。
好きなことを仕事に生きていくなんて並大抵のことじゃない。
世の中甘くない。
この便利な東京で、一体何が不満?
大勢に反対されながら、自分たちの勝手で東京から伊豆に出てきたのに
自分たちはなんて馬鹿なんだ、今日までの人生で何を学んだんだ
たくさんの人を悲しませてまで、何がしたかったんだ。
手元に残った額は、再度工事業者を探すにはあまりにも足りません。
穴だらけの館内を前に
応援してくださっている沢山の方々の顔が浮かび
眠ったままの宿と共に
まるで私たちも時が止まってしまったようでした。
そんな時、事情を知って駆けつけてくださったのは
お世話になっていた漁師さんを筆頭とした地元の方々や
東京で働いていたころの職場の方々や友人
ゲストハウス時代に出会った大切なお客様方でした。
現役の職人の方々や有識者の方々にもお教えいただきながら
時にはYouTubeやSNSの情報も参考に
毎日寝る間も惜しんで作業を進めました。
この宿の、止まった時を動かし
また沢山のお客様で賑わう場所にしたい。
そんな思いに共感してくださった沢山の方々の協力のもと
2022年夏、念願のオープンを果たすことができました。
なぜ、ととりばが「DIYの宿」なのか
それは私たちのせいです。
もしもあの時私たちにもっと危機管理能力があれば
もっとお金があれば
快適で綺麗な宿で、お客様をお迎えできたはずだと
今も後悔と向き合いながら営業しています。
私たちの未熟さと過ちのせいでそれは叶わず
日々お客様方にはご不便をおかけしてばかりです。
しかし、その悔しい経験こそが
私たちの心に新たな活力を注いでくれました。
2024年、私たちは年間1500名様ご来店という目標に1年間全力で取り組み
ありがたいことに目標を達成、その内の3分の1を超える人数が
リピーターのお客様や、そのご紹介の方々のご予約でした。
「ずっと来たかったんです」
「友人にもおすすめしてるからね」
「頑張ってね」
初めましてのお客様との出会いや
お馴染みのお客様からの温かいお言葉が
全てかけがえのないもので、私たちの励みになりました。
お世辞にもまだ施設は、便利でも快適ともいえなくて
温泉でもない、歩いて行けるコンビニも無いかもしれませんが
応援してくださる方々や、温かい声をかけてくださるお客様に
同情でなく、心から喜んでいただけるような
「この宿ならではの体験」と「新たな価値」をお届けしたい。
それが現在のととりばのテーマである
「地魚づくし」に繋がっています。
「おいしかった」
「食べたことないお魚に出会えた」
「子供がこんなにお魚を食べるのを初めて見た」
お客様の喜びの声が、いつしか私たちの原動力になり
心に空いた穴が少しだけ満たされるのを感じました。
私たちのやっていることが
少しでも誰かのためになっていると
この宿と自分たちの価値を、前向きに捉えることができました。
応援してくださる皆様の、温かい支えがなければ
今こうして笑顔でお客様をお迎えしている私たちは、いませんでした。
過去の苦い経験で失ったものは確かに大きいですが
それを乗り越えた先に見えたのは、ただのお金ではなく
心から大切に思えるお客様方との絆でした。
ととりばでは、港まで徒歩1分の環境と
お客様のためにいつでも最高のお魚を届けてくださる
信頼する地元漁師の方々の協力のおかげで
いつでも超鮮度の地魚をお客様にご提供してきました。
重きをおいているのは
毎日地魚と向き合う魚好きオーナーのこだわりの仕立てと
小さな民宿だからこそできる、心の伝わるおもてなしです。
これからもととりばは「地魚堪能の宿」をテーマに
港町のぬくもりあふれるひと時を提供し続け
支えてくださるお客様方や地元の方々と共に
この土地で日々精進してまいります。
また、今年3周年を迎える現在も、お客様のいない時間を使い
夫婦で日々宿の修繕や美化にあたっています。
今残されたこの宿の古さもまた「味」として
「徐々に良くなっていく宿」を温かく見守って頂けますと幸いです。
皆様に安心してお過ごしいただけるよう
より居心地の良い空間に近づけていきますので
今後ともどうか、応援のほどよろしくお願いいたします。
拙い文章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。





















